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風光る 脳腫瘍闘病記

ルームシェア

東京に戻った私は姉に電話をした。

「あっ、もしもし、今着いたんだけどここで待ってればいいの?」

「うん。今から迎えにいくから待ってて」

私は銀座線の田原町という駅で姉と待ち合わせをしていたのだ。15分ぐらいしてユメを連れた姉の姿が見えた。

「あっ、お姉さん、久しぶり、いろいろ大変だったみたいね」

「大変だよ~犬OKの部屋探してさぁ、愛ちゃんの荷物パッキングして、猫の手も借りたいぐらいだったよ」

「わんっ」ユメが「あたしの事忘れてない?」と言ってきた。

「ユメ~おりこうさんにしてた?そう、おりこうさんしてたのぉ・・」私はそう言いながらユメの頭をなでなでした。

「で、Hとは暮らさないんじゃなかったっけ?」

「まぁまぁ、いろいろとあってね、そうゆう事になっちゃったのよ」

「Hってどんな人?」

「かっこいいよ。同じエホバの証人2世だから話とかあっちゃって。Hはビートルズが好きでバンドもやってんの。今はバンドの練習で出かけてて夜は近くのお店で待ち合わせしてるからそこで紹介するね」

「ねっ、家賃いくら?」

「13万4千円」

「13万!!!!」

「ユメがいるからね」しばらくして姉が立ち止まって指をさした。

「ここよ、ここ」

「何か、ぼろいビルだね」入り口にはハイツ○○と書かれている。

「うち、4階だから」

部屋に案内されてその広さにビックリした。私の部屋は6畳のフローリングで対した事ないのだがお姉さん達の部屋は20畳ぐらいある。

「これで13万は安いかも」

「大家さんもいい人よ、最上階にいるの」

夜になってHに会う為、近くの居酒屋に行った。しばらくして、それらしい人が店内に入って来た。「あれがHか?」背が高くてやせ痩けてメガネをかけており、どことなく石坂浩二に似ている。

「初めましてHです」やっぱりこいつか・・。姉はかっこいいと言っていたがどこがかっこいいのだろう?洋服もださい。

話初めて30分もしない内に私はHが嫌いになっていった。とにかく理屈っぽい。しかも俺は頭がいいんだと言わんばかりに難しい話をしてくる。

「どこがいいんだ?こんな奴。Sさんの方が何倍もいいじゃん」

こうして3人と一匹の共同生活が始まったのである。ルームシェアというのは難しい。私はオーストラリアで人と暮らす事の難しさを嫌ってほど経験していた。

最初はそれなりに楽しく暮らしていた。姉とはよく上野公園までユメと一緒に散歩に出かけたりしていて仲良くしていたが、Hにはあまり話しかける事はしなかった。

そんなある日、私は昼間にシャワーを浴びていたらHがトイレに入る為にスリガラスで出来たドアの前を通ったのだ。

ウチのトイレに入るには廊下に面したドアを開け、そのつきあたりにトイレがある。ドアを開けたら右手手前に洗濯機があってその奥に洗面台がある。

お風呂が左手側にあるのでトイレにいくにはお風呂のスリガラスの前を通らなければならない。

Hは人がシャワーを浴びてるのにノックもせずに入ってきたのだ。

シャワーから出て私はHに怒りをぶちまけた。お姉さんが

「だから言ったじゃん、今行ったら愛ちゃん怒るかもよ?って」

私はそれを聞いてさらに頭にきた。

「普通入って来ないでしょ?何なの?私なら絶対しない」Hは謝ろうとはせず

「見てないよ」「それに実家なんかトイレのドアを開けてしてたりしてたよ、家族なんだからいいじゃん」しかも「愛ちゃん、絶対=100%じゃないんだよ」と言ってきた。

「あたしとHは家族じゃないっ!」それに見えない訳がない。真正面を向いてても180度、視界には映ってるはず。私はスリガラス越しにHに裸を見られたかと思うと悔しくなり、謝らないHに向かって一言

「変態エロおやじ!」と言ってやった。Hめ、絶対許せない。

Hと姉の関係も微妙におかしくなり始めた。Hはパソコンを使って仕事をしており一日中家の中にいた。しかも昼夜逆転の生活をしていた為、夜中にパソコンのキーボードを叩く音がうるさいと姉はいつもHに不満をぶつけていた。

それでも昼夜逆転の生活のスタイルを変えようとはしなかった。次第に姉は安定剤を服用するようになっていった。

「今日、ユメ連れてSさんに会ってくるから」

「Sさんに?そっか、ユメのお父さんはSさんだもんねぇ」

「この事はHには内緒ね」この日を境に姉は前の旦那のSさんと頻繁に連絡を取るようになった。でもSさんにも新しい彼女がいて姉とは友人として接してたようだがある日、

「週末、ユメ連れて鹿島行って1泊してくるから」私は耳を疑った。鹿島には海の近くにSさんの別荘があるのだ。私も1回行った事がある。ユメは海が大好きなのだ。

「Hには友達の所に泊まりにいくからって言ってあるから話合わしといてね」

段々、姉のしている事がけがわらしく思えてきた。


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